トランプ大統領が就任100日を迎える直前の4月27日、シンガポールの金融機関で働く陸艶豊さんの東京出張に合わせ、上海繋がりの中国人と日本人の12人が歓迎会を開きました。
歓迎会は、トランプ大統領の「相互関税」で大変に盛り上がりました。
「米国の製造業が衰退する一方なのに、中国の先端産業が世界をリードしている」。
「米国は同盟国を犠牲にしても発展を願っている」。
「米国人は教育度が低く、民度も中国に劣る」。
このように中国人の批判は強烈です。
なかでも印象深いのが、「米国は歴史が浅い。中国は4000年の歴史が育んだ知恵を生かしてトランプ大統領と闘っている。目先の利益に捉われた米国の価値観では、中国に勝てない」という発言です。
大不況の真っただ中ある中国
関税戦争が激しく燃え上がった4月初旬、中国国家統計局が2025年1~3月のGDP(国内総生産)を前年同期比5.4%増と発表しました。これは3月初め全人代で発表した予測の約5%に準ずるプラス成長の数字でした。
バブル崩壊が進行中の中国が、米国から「相互関税」で脅されているのに、「なぜプラス成長なのか」という疑問を解くために、簡単に中国経済を振り返ってみます。
改革開放以来、経済の常識を覆してひたすら成長した中国経済が頂点に達したのが、新型コロナが発生した2019年です。
コロナ禍で初めて本格的な不況を経験する中国は、2020年夏に不動産バブルが破綻。
恒大集団が2兆元(20兆円)の債務不履行に陥り、世界に衝撃を与えました。
14億の国民を“ 信仰”に駆り立てた「不動産神話」の崩壊は中国経済を根底から揺るがしました。土地を財源にしてきた地方政府が公務員給与の不払いに追い込まれ、失業者が巷に溢れ、監視の網をすり抜けた強盗や殺人、窃盗や通り魔事件が続出し、社会が混乱を極めて、一党独裁の存亡が問われるほどの不況になったとき、最大の貿易相手国の米国から「145%の関税を課す」と、脅されたのです。
そんなときに国家統計局が第1四半期のGDP を「5.4%増」と発表。多くの人が、発表を信じなかったはずで、大事なことは数値が正しいか否かではないのです。
「5.4%増」は習近平政府がトランプ関税と闘うためにひねり出した戦略の一つと考えられます。
米中チキンゲーム
関税戦争は、互いに譲歩しなければ衝突して両者が死に至る「チキンゲーム」に例えられています。
トランプ大統領は2月1日、中国にそれまでの10%の関税に10%を追加し、4月2日には54%を課すと脅す一方で、「協議に応じれば引き下げる」と表明。
ですが、中国が反応を示さなかったので、さらに104%と言い、それでも習近平政府は関税戦争に「最後まで付き合う」と平然と返すと、トランプ大統領は、「145 %」と怒る一方で、何回も「習近平主席は賢い」と甘い言葉を囁きました。
しかし、習近平政府は「交渉の扉が開かれている」と、繰り返すのみで少しも話し合う姿勢を見せません。
強い姿勢を貫いたのは、第1次トランプ政権時代の苦い経験があるからです。
習近平政権は2016年の米大統領選で、トランプ氏から貿易不均衡に関して猛列に攻撃されました。
中国政府はこれを警戒して、大統領に就任してから日の浅い2017年4月上旬に、習近平主席自らがフロリダのトランプ邸を訪ねて「貿易戦争を行わず、追加関税を停止する」ことで合意しました。
ところが、それから3ヵ月後、トランプ大統領はフロリダでの合意を破棄して貿易戦争に突入したのです。
中国人が「命」と同等と考える「面子」を潰されたので、習近平主席はもちろん、中国人の心の傷は半端ではありません。
トランプ大統領が「習近平主席は賢い」とおもねても聞く耳を持たないのです。習近平政府が対談に応じないのは、さらに大きな理由があります。
大統領就任直後の2月初め、ホワイトハウスで世界が注目したウクライナと米国とのトップの会談があり、ゼレンスキー大統領を「感謝が足りない」と責め、「資源を寄こせ」と恫喝し、世界中が驚愕しました。
甘いトランプ発言にリスクが隠されていると中国が警戒するのは当然です。
米国は中国製品を必要だから買った中国政府は、関税で困るのは中国だけでなく、米国もと見抜いています。
米国は、中国から年間5250億ドルも輸入していますが、これは中国製品が安く、必要だから輸入しているのです。中国製品が消えたとか、値上がりすれば、損をし、困るのは、米国の消費者です。
中国は、4000年の歴史の中で危機を何度も経験しました。列強の進出で植民地に近い状態になり、日本にも侵略されました。
毛沢東時代には世界に背を向けて鎖国したので、米国より、はるかに多くを経験した知恵と資源のある大国なのです。
トランプ氏が大統領に就任する数年前から、対決に備え、様々な戦略を練っていたに違いありません。レアアースの輸出禁止、航空機の納入停止はほんの手始めです。
中国は貿易戦争で大打撃を受けますが、国難を乗り越え、いずれは米国を凌駕する大国になるように思います。
